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福岡地方裁判所小倉支部 昭和39年(ワ)733号 判決 1969年10月08日

原告 中村浅治

被告 国

訴訟代理人 日浦人司 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、福岡地方裁判所(小倉支部)所属執行吏半田安美が、昭和三七年一〇月一九日福岡地方裁判所小倉支部昭和三七年(ヨ)第二五三号仮処分事件の本件桝網を仮に撤去することができるとの仮処分決定に基き、原告が北九州市小倉区平松海岸に設置していた定置桝網二統を、同年一一月二一日同裁判所同年(ヨ)第二八七号仮処分事件の仮処分決定に基き、同様桝網一統をそれぞれ撤去した事実は当事者間に争いない。

二、請求原因第4項イ記載の物件(後記編注参照)は陸揚げ可能であるに拘らず半田安美執行吏の誤つた判断によりこれらを撤去しなかつたことは同人の過失であるとの主張につき案ずるに、原告主張の各物件の各類数量が撤去されずに海中に投棄されたことは原告の立証その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

仮にある物件のある数量が撤去されなかつたとしても、本件の如き仮処分決定に基き執行に及ぶに際したは執行吏としては必しも陸揚可能な物件は全て陸揚げしなければならない義務あるものと云うを得ず、桝網の状態、各部品、附属品の再使用価値、債務者の再使用の意思、費用等の事情を考慮して陸揚げすれば足るものと解するのが相当である。

<証拠省略>によれば本件桝網設置場所は浚渫土砂の放棄区域であり、本件第一回の仮処分決定がなされた昭和三七年一〇月一一日以前の同月六日にはポンプ船の運転が開始し、浚渫土砂が排砂管により本件桝網設定位置近くまで放棄されており、平松漁業組合は小倉港務局等より本件桝網の早急なる撤去方を要請されていた状態で、仮に原告が本件桝網による漁業を営もうとしても事実上不可能な状態であつたことが認められる。

そして、<証拠省略>によれば原告と平松漁業組合は平松海岸先の埋立工事による組合の漁業権放棄を端緒として本件桝網の撤去を廻つて昭和三九年八月項よりはげしく紛糾し、原告は小倉港務局等に対する一千二百万円の補償要求が解決するまでは桝網を自ら撤去する意思のないことを同組合に通知し、又本件仮処分決定書の送達にあたつた半田執行吏に対しても同様任意に履行する意思のない旨告げた事実が認められ他に右認定を覆すに足る証拠はない。

すると原告は本件桝網を再使用する意思はなかつたものと断ぜざるを得ない。

そして<証拠省略>によれば、執行吏半田は定置桝網の撤去は経験がないが、行橋市沓尾において昭和一七年まで桝網漁をしていた前川市蔵を執行補助者として使用し、同人の竹は古くて使えない、電線は腐る、網の撤去のため切断したロープは持つて帰ツても使えないからいずれも持ち帰るまでの必要がないとの認識判断による意見に従い実網道網及びこれらに附属する大輪、小輪、もどり、どんじり、とわいん、縄、輪掛糸、鉄岩等を撤去して第一回の執行を了し、又第二回目は同人の直接の立会補助はなかつたが、第一回同様同人の意見に従つて仮処分執行に及んだことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると、執行吏半田安美の執行行為(桝網撤去行為)に過失があつたとはいい得ない。

三、次に請求原因4項ロの物件(後記編注参照)腐食したのは執行吏半田安美が管理保存義務を怠つた過失によるとの主張につき案ずるに、原告主張の各物件の各数量が腐食したとの事実は原告の立証その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

仮にある物件のある量が腐食したとしても保管者としては民事訴訟法第七三一条第二項、第三項に照し、何時受領に現われるかも知れない被申請人のため多額の費用をもつて保管しなければならない義務あるものと云うを得ず、被申請人が執行了知後速かに受領することを前提として有姿のまま物件の価格相当の且つ当分の間の保管を為せば足るものと解するを相当とする。

そして、本件仮処分執行調書の謄本が各執行翌日に原告に送達された事実、前川市蔵が撤去物の事実上の保管にあたつた事実は当事者間に争いない。

<証拠省略>によれば、本件各仮処分の執行には原告が立会しなかつたので撤去物件を原告に引渡すことが出来なかつたので半田執行吏はこれを自らの保管に移し原告が受領に来れば引き渡すよう命じて事実上の保管は桝網漁経験者である前川に為さしめた。前川は撤去された網が大きく適当な保管場所もないため、又油泥で汚れていたためとりあえず平松海岸の平松漁業組合の舟入場の沖倒防波堤の上に広げて干し乾燥させることとした。

そして、仮処分前平松漁業組合の代理人として原告と接衝していた江川悟より執行の翌日に原告に対し網を干している場所を示して受領方を催告し、又同組合役員菊川宗五郎からも原告に対し同様の催告をした事実が認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく措信出来ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると執行吏半田安美に撤去物の保管につき過失があつたと認めることはできず、却つて原告の受領懈怠の結果によるものと云うべきである。

四、網を定尺に切り金具類をとりつけて他に定置するに要する費用は仮にこれを要するとしても、本件仮処分の執行が違法でない以上被告が負担すべきものでない事明かである。

五、以上要するに原告本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納一郎)

請求原因第4項記載の物件

イ 撤去されずに海中に投棄された分

金具板        一五〇本

電線          一二丸

竹           六〇本

マニラロープ(六分)   六丸

同 (四分)       二丸

同 (三・五分)     五丸半

定綱           四丸

道網           二丸半

鉄岩         五〇〇個

大輪          三四間

小輪          三四間

もどり         一七間

どんじり         七間

とわいん         三丸

縄            四丸

糸            一丸

輪掛糸          半丸

木具板         七〇本

竹(上)         二本

ロ 撤去後腐食して使用不能となつた分

マニラロープ(三・五分) 二丸半

実網           八丸

道網         二・五丸

鉄岩       三、〇〇〇個

大輪          六六間

糸            二丸

小輪          六六間

輪掛糸          一丸

もどり         三三間

泥岩         一二〇個

どんじり         三間

竹(上)         五本

縄            六丸

鉛          一九二個

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